ハルシオン

うつ病になって数年、とても苦しい日がたくさんありますが、少しずつ良くなっています。
僕がどういう経緯で発症したか、症状の経過やその時の心情などを小説形式で綴っていきたいと思います。尚多少のフィクションは入っていますが、感じた気持ちなどはノンフィクションです。

ハルシオン2

七月下旬、学校は夏休みに入った。
それでも僕は学校に通い続けた。自習室で勉強し、わからないことがあれば先生に聞く。
ついでに学校主催の夏期講習にも参加した。予備校には通っていなかったが、ハイレベルな授業が受けられた。模擬試験もたくさん受けた。すべてが順調だったんだ。


八月。とても暑かった。それでも僕は学校へ通い続けた。
先生たちは君なら絶対大丈夫、と背中を押してくれた。
両親も僕の成績が順調に伸びているのを確認し、安心しているようだった。
そんな時、帰りの電車に乗りながらイヤホンで音楽を聴いていた。
大好きなアーティストの曲。何百回と聞いた聴き慣れた曲。
でも、どこか、いつもと雰囲気が違うように感じた。
少し音がこもっているような。
イヤホンはしっかりささっている。
あれ、断線でもしたかな。
予備のイヤホンに付け替える。
それでもその違和感はぬぐえなかった。
(左耳が、あまり聴こえない。)
うそだろ?そんなことあるのか。
左耳だけ耳栓をしているような、
音は聞こえるがこもっている。
不安になって帰宅してすぐ、近所の耳鼻科へ向かった。


聴力検査が始まる。
なんだ、聴こえるじゃないか。
「このくらいの年の子は自分の耳が聞こえないとか思い込みするんですよ。」
医者の言葉。
そういうものなのか、でも。
でも確かに僕は聴こえにくかったんだ。現に今だって左耳の違和感をぬぐえないでいる。
それでも、聴力検査はいたって正常だった。
そういえば最近あまり寝付けないでいる。疲れているのかな。
しっかり眠ろう。
そう思ってはみたものの、やはりその日もうまく寝付けなかった。
目を閉じるとどこからともなくわけのわからない焦燥感や悲しみが襲ってくる。
明け方ようやく寝付けそうになっても朝日がそれを邪魔してしまう。
僕の生活は完全に昼夜逆転した。

ハルシオン


どうしてだろう。わからないんだ、いつからだろう。
全てが狂ってしまったのか。僕が悪いのか。
いつからだろう、本当に地獄だった。
あがいてもあがいても抜け出せなかったんだ。
僕の頭の中にはいつもアリジゴクにはまるアリの映像が浮かんだ。
僕は明らかにアリなのに。外側から自分を客観視しているような。
そんな気分だった。


朝、いや違うもう昼過ぎか。
目が覚めると遮光カーテンの外に太陽がかんかんと昇っていた。
時計を見ると14時過ぎ。
「だいぶ寝たな。」
昨夜は午前3時に床に入ったから、だいぶ寝た。
だけど僕の体は軋んでいる。
二三度大きく伸びをすると体中の関節がぽきぽきとなった。
眠剤の効果がまだ残っているのか、あくびが出る。
「やっぱりビールで薬を飲んだのがいけなかったかな」
四種の薬に500ミリリットルのビール。
それが僕の昨夜の夕飯代わりだった。
数年前から僕は急に夜、自力で眠ることができなくなった。
それが、すべての始まりだった。


僕は高校三年生だった。
高校は近所では少し有名な私立の進学校だった。
僕は成績が良かった。日々の小テストはもちろんのこと、学期末テストでも割とよくできていたほうだと思う。自分なりにも頑張っていた。
ちょうど受験生になり志望の学校だってすでに決まっていたんだ。
この高校に入学して間もなく、僕はすぐに志望大学を決めた。
それだけ、行きたかった。
勉強したいことがたくさんあった。
新しい大学生活での希望、将来への自信があった。
4月、僕は学校が終わるとすぐに図書館へ向かい、閉館時間まで勉強をして帰るようになった。
多少は疲れるけれど、その疲労感がまた何とも言えない自信につながった。5月6月と僕は順調に”受験生“としての生活をこなしていった。